VUCA時代の転職調査で見えた生きづらさ 「自分の将来がわからないこと」に耐えられない人たち【大竹稽】
大竹稽「脱力の哲学」3 〜「VUCAの時代の集中力」〜
◼️ 「そうではない。開ける前は同じだが、その後は違う」
「そうではない。開ける前は同じだが、その後は違う」
「ならばその後の一切を教えてくれ」
「扉の向こうは扉を開けなければわからない。ライオンが出てくるかもしれない。妖精かもしれない。お前を殺そうとしている奴隷たちかもしれない。いずれを選ぶにせよ、一つを開ければ他の扉は永遠に閉ざされるだろう。その向こうに何があったかを知ることできないのだ」
「つまり、選ぶ理由はない。というわけか」
「理由はない。お前が自由意志で決めたという他は」
インシアッラーは絶望して叫ぶ。
「どうして決められるか! 扉がどこに通じているかわからないのに!」
ここで悪魔は、「人生の自由」に関する冷酷な真理を告げる。
「これまでお前は、扉の向こうに何があったかを知っていたことはあったのか? 生まれてからこれまで、あれこれ選択してきただろう。そして理由があると信じていただろう。だが、お前が期待するところのものが本当に起こるかどうか、予見などできなかったのだ。選択の理由など、幻に過ぎなかったのだ。人間はみな、盲目なのだ」
一つの扉を選ぶことができないまま、インシアッラーは、この部屋で老人になってしまいます。彼がどのようにこの部屋から現世に戻ったか、これは作品を読んでくださいね。
「選択の理由など幻に過ぎなかった」、これはエンデが告げる世の摂理です。もちろん、選択理由を考えることも大事ですが、それによって「わからなければ出口から出られない」になってしまっては無残です。
「変わりやすい」「不確実」「複雑」「あいまい」は、人間の本質。そして、世の中というのも、変わりやすくて不確実で複雑であいまいなものなのです。「わからない」がデフォルトなのです。
現代人が治すべきは、「わかる依存症」でしょう。わからないと進めないのは、ダメ。わかったふりをしてもダメ。新型コロナウイルスは、このダメダメ思考にダメージを与えたのです。むしろ、「わからない」からこそ、自由に、主体的に、道を創造することができるのです。
最後になりますが、このコラムは、決して転職自体を否定するものでも、転職サイト「doda」さんを非難するものではありません。誤解なきよう。
文:大竹稽